東海岸のものをおまかせでね。

一人ごはん、二人ごはん、少人数こじんまり、大人数わいわい、
さいわいなことにどれも好きで、どれも楽しいと思える人種である。

学生時代からひとりで旅に出ることも多かったため、旅先でひとりで食事をするということに抵抗がないが、
「この店に一人で入ってもよいか」を見極めるのはなかなか難しい。
その国では一人で食事をするということが自体がめずらしく、定着していない文化ということもありうるし、
どういうシチュエーションで使われるお店なのか、ということも土地勘や事前情報がなければわからない。
自分がよくても、お店の雰囲気を乱すことはあまりしたくないと思っている。

2013年秋にひとりで訪れたニューヨークは、ありがたいことに現地で食事を共にしてくれる友人・知り合いが何人かおり、
ひとりで夕食をとることはあまりなかったが、その中でとても気に入ったお店がある。

ランドセントラル駅の、老舗オイスターバーである。
店内は非常に広く、たしか半分がテーブル席、半分がカウンター席だったと思う。
ひとりで食事をとる際、カウンター席のほうが気兼ねなくて居心地がよいので、その占める割合が多いのもありがたかった。

旅先で初日の食事に、あえて生ガキを選ばなくとも、と思う人もいるかもしれないが、そういうことは気にしない性質である。
せっかくニューヨークに来ているので、「東海岸のものをおまかせで」と頼んだつもりだったが、英語力の問題か、西海岸と東海岸を混ぜ合わせた皿が運ばれてきた。
西海岸のものは少々大ぶりでカキ自体の含水量が多い印象、反して東海岸のものは小粒でぷりっと身が締まっており、しかしどちらも日本のものより磯臭さが強くなくて非常においしい。
東海岸のほうが個人的には好きだけれど、比較しながら食べるのが楽しくて、結果オーライ。
付け合わせはクラムチャウダーとクラッカー(それからもちろん白ワイン)。

クラムチャウダーは、マンハッタン式トマトベースのものと、ニューイングランド式のミルクベースのものとあり、珍しさと、場所もせっかくなのでマンハッタン式のものをオーダーする。

味は正直言って普通だった(タバスコをかけるとおいしい)が、冷たい生ガキの後に温かいスープが出てくると、なんだか胃が安心して、初日の食事にふさわしかったように思う。

 

隣に座る初老の男性と、給仕してくれるブロンドポニーテールのハツラツとしたお姉さんのやりとりもなんだか微笑ましく、U字型のカウンター席に共に座る客の様子を一組ずつ観察しながら、映画のワンシーンのような初日の晩餐を終える。