なんだかまくらみたい。

きちんと手入れの行き届いた金色の縁どりの白いお皿に、お行儀よく寝かされて、それは運ばれてきた。

第一印象は、「なんだかまくらみたい。」だと思った。

というのも程よい長方形なのだ。長辺と短辺の比率がちょうど7:3くらいで、指でつつけばしっかりとへこみ返してくるような厚みがある。

世間でよく見るそれには、なんだか野蛮なまだらの焦げが見受けられることが多いが、目の前に横たわるその2体は均一な美しい焼き目をもって、優雅に横たわっている。


温かいうちに表面にバタを溶かし、一口目は何も付けずに。
特段、変わった味はしない。たった今のせたバタの塩気は感じるものの、それは経験したことのある、正真正銘のフレンチトーストの味がする。
特筆すべきなのは、味というよりはむしろ、その食感。

つまり、ほんの一口で誰が何を言わなくとも漏れ伝わる、その「手間ひま」だろう。

聞くところによると、厚さ4センチにカットされ、たっぷりのアパレイユ液に24時間浸された食パンは、その間に計4回、「寝返り」を打たされ、隙間なく浸透した液体は、起きたときにむくみをとるかのごとく余分な水分を絞られ、これ以上ない完璧な保水率をもってしてフライパンに投入されるという。
全行程を知らずとも、一口頬張ればわかるだろう。
手塩にかけて愛情をたっぷり注いで育てた子が、いかに優しく素直な味がすることか。
卵や牛乳とは別からくる、なんとも言えぬ甘さが引き立っていることか。

その原型が食パンであったことを一度も思い出さずに食べ終えた。
固くなった食パンをアレンジしたのではない。食パンの変化形ではない。
それは小麦であったはじめから、フレンチトーストとして供されるために一過程としてパンという段階を経たに過ぎない。
正統なフレンチトースト、まさにその名称がしっくりくる。

グラニュー糖をたっぷりまぶし、口の中でじゃりじゃりと味わうのも懐かしさがあっていいし、こっくりとした深みのあるメープルシロップを滴らせながら味わうのも捨てがたい。

いずれにしても、この正統なフレンチトーストは、文字通り一晩かけずには作れないものであるが、味の決めてはそれだけではない。
手間ひまのさらに奥に感じるのは、一朝一夕では仕上がらない、ホテルオークラの47年の歴史だろう。

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ホテルオークラ オーキッドルーム
フレンチトースト